こんにちは、エンゼル佐藤です。
このページでは、少女漫画『ツーリング・エクスプレス』(河惣益巳先生)に登場する薔薇「アストレ(Astree)」の物語的な役割と象徴性について考察します。
この薔薇は私自身も実際に育てており、その栽培記録については別記事で紹介しています。本記事では、主に作品中の描写を中心に、“アストレ”がどのような意味を担っていたのかを読み解いていきます。
『ツーリング・エクスプレス』におけるアストレの登場シーン
「アストレ」というバラは、少女漫画ファンには特別な響きを持つ名前かもしれません。
この薔薇は、河惣益巳先生の代表作『ツーリング・エクスプレス』に登場し、物語を象徴する重要な花として描かれています。
1981年『花とゆめ』別冊夏の号(白泉社)でアテナ賞を受賞した本作は、その後1999年に『別冊花とゆめ』8月号で一応の完結を迎えますが、「特別編」「Euro編」として物語は今も続いています。
アストレは、主人公シャルルの父ジョルジュ・オージェが妻イレーヌにプロポーズした際に贈った薔薇であり、親友エドワード・ティリエも、愛するフランソワーズ・レジャンに同じ薔薇でプロポーズしています。さらに、イレーヌが育てた庭の情景にもアストレが登場し、登場人物たちの心のつながりを象徴する存在として繰り返し描かれています。
これらの描写から、アストレは単なる植物以上の存在──つまり“愛”や“家族”、“記憶”といったテーマを表現する象徴として機能していることがわかります。
現実の品種「アストレ」とのつながり
作中で「ピースとブランシェ・マルランの子」と語られているアストレは、実在するバラ品種「アストレ」に基づいています。
- 品種名:アストレ(Astree)
- 親品種:ピース × ブランシュ・マレラン
「ヨーロッパでもっとも美しい薔薇」とも言われることがありますが、これは文献上の裏付けは確認できていません。ただし、親品種であるピースが「世界で最も美しい薔薇」と評された経緯があり、そこからの連想かもしれません。
このように、現実に存在する品種を物語の中に登場させることで、作品世界にリアリティと深みが加わっていると感じられます。
アストレが象徴するもの
『ツーリング・エクスプレス』において、アストレは単なる“美しい花”ではありません。
- 愛の告白の象徴(ジョルジュ→イレーヌ、エドワード→フランソワーズ)
- 家族の記憶と絆の象徴(イレーヌの庭)
- 世代を越えて受け継がれる心のつながり
これらの描写から、アストレは作中の“静かな継承”を象徴する存在であり、物語に奥行きを与える重要なモチーフとして機能していることがわかります。
現実のバラ品種としてのアストレは入手困難であり、その希少性もまた、物語に登場する“特別な一輪”としてのイメージと重なります。
まとめ
『ツーリング・エクスプレス』に登場するアストレは、作品世界における象徴性と、現実の品種としての存在感が見事に重なったバラです。
その登場シーンは、単なるロマンティックな演出にとどまらず、人物間の関係性やテーマ性を繊細に描き出す“言葉なき語り手”のような役割を果たしています。
物語に登場したバラを、実際に育ててみる──そんな贅沢な読書体験を、私はこれからも記録していきたいと思います。
以上、エンゼル佐藤でした。