はじめに
「アストレ(Astrée)」というバラをご存じでしょうか?
バラ愛好家の間では、「フランスで最も美しい薔薇」と称されることもある、魅力的な品種です。
しかしその表現、実は出典が明確でないまま広まっていることをご存知でしょうか?
この記事では、「アストレ」の品種背景、受賞歴、そして実際に“フランスで最も美しい薔薇”とされた根拠について、文献や現地情報をもとに検証し、深掘りしていきます。
アストレとは?
- 発表年:1956年
- 育種家:ポール・クロワ(Paul Croix)
- 親品種:ピース(Peace)×ブランシュ・マルレン(Blanche Mallerin)
- 花の特徴:いぶし銀が掛かったシルバーピンクのグラデーションで、咲き終わりに薄く退色していく薔薇。大輪で、香りも上品。四季咲き性があり、房咲きになりやすい。
ポール・クロワは1956年、ブルゴ=アルジャンタルで自身の苗木園を立ち上げた直後にこの品種を発表。アストレは、彼の代表作として知られています。
「フランスで最も美しい薔薇」との称号の由来
日本の園芸書やブログでは、「アストレはフランスで最も美しいバラと称された」といった表現を目にすることがあります。しかし、その出典が示されていないケースがほとんどです。
フランス語資料の調査を通じて明らかになったのは、次のような事実でした:
- リヨン1等賞(Lyon 1st Prize)
- リヨン金賞(Lyon Gold Medal)
- Plus Belle Rose de France(フランス最優秀薔薇賞)
(日本で言うなら農林水産大臣賞とっいた感じ)
この「Plus Belle Rose de France(フランスで最も美しいバラ)」という称号は、1956年に開催されたリヨン・ローズ・トライアル(Lyon Rose Trials)における公式な評価です。
つまり、伝説として語られていた「フランス一美しいバラ」という称号には、しっかりとした根拠があったのです。
現在のフランスでのアストレの位置づけ
アストレは、現代の品種と比べるとややデリケートで、市場流通にはあまり乗っていない希少な存在です。
しかし、育種家クロワの代表作として、またフランス国内で公式に表彰されたクラシックローズとして、今なお愛好家の間で大切にされています。
現代のフランスにおいては、「知る人ぞ知る静謐な名花」として位置づけられていると言えるでしょう。
写真で見るアストレの魅力
咲き始めのアストレ
我が家で育てたアストレ。雨に濡れた花びらは、いぶし銀のような光を湛え、ピースとブランシュ・マルレンの血統を感じさせる気品をまとって咲きました。
咲き終わりのアストレ
岐阜・ワイルドローズガーデンにて撮影した咲き終わりのアストレ。シルバーピンクが柔らかく退色し、品種の名にふさわしい“星の終焉”のような静けさをたたえています。
まとめ
「フランスで最も美しい薔薇」と呼ばれる「アストレ」。その表現が広まった背景には、1956年のリヨン・ローズ・トライアルでの三冠受賞という、明確な裏付けがありました。
出典の曖昧なまま広まった伝説を検証することで、むしろこのバラの本当の魅力が、より鮮明に浮かび上がってきたのではないでしょうか。
今後もこうした「伝説」と「事実」を丁寧にすくい上げながら、バラの奥深さを伝えていけたらと思います。
(文責:「薔薇語り」管理人)
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